導入事例

「投資」が社会の豊かさをつくる スマートホームへの投資で日本の不動産に新陳代謝を

作成者: HOMETACT|Jan 14, 2025 1:19:02 AM

(左:橘氏、右:加藤氏)

今回は、不動産オーナー向けの資産管理アプリを提供するWealthPark株式会社の研究機関である「WealthPark研究所」所長の加藤氏と、「HOMETACT」の事業責任者である三菱地所の橘が対談。海外と日本の住まいに対する考え方の違い、日本の不動産業界の課題、スマートホームの可能性、「HOMETACT」が社会の豊かさを変えていくことへの期待などを議論しました。

 

今回の対談者

  • 加藤 航介:WealthPark研究所 所長

    日系・外資系の投資会社においてファンドマネージャー、投資啓発などの要職を歴任。英国・米国に約10年滞在し、世界30ヵ国での投資実務を経験、欧州富裕層を中心とした数千億円規模の資金の運用に従事する。現在は、投資・資産運用の啓発・教育を行うWealthPark研究所を運営。

    ▶︎WealthPark研究所についてはこちら:https://wealthpark-lab.com/

  • 橘 嘉宏:三菱地所株式会社 住宅業務企画部 「HOMETACTPJリーダー

 

人類最大の資産の1つである「不動産」 不動産投資の進化こそが、我々が豊かになるための鍵

―不動産オーナー向けの資産管理アプリの「WealthPark」と、エンドユーザー向けのスマートホームサービスの「HOMETACT」。これらの新しい不動産テックサービスは、どのような社会課題と向き合っているのでしょうか?

橘:不動産テック領域の新サービスは、日本人が考える家のあり方や、不動産への投資という概念に変化を起こしていくのだと思っています。

不動産は、定期・不定期にメンテナンスを行うことが重要です。これまでの日本における不動産のメンテナンスは、住宅だろうと賃貸物件であろうと、物件を修理して価値を維持するという感覚が中心でした。それが現在では、物件の価値そのものを高めたり、自分の生活への想いを住宅に反映するなど、より投資的な概念が強くなっています。現在はその移行期にあるのだと思いますが、その投資先、もしくは意思決定の土台として、不動産テックが大切になります。

現在の大きな問題は、オーナーが自分の所有する物件の本当の資産価値や活用方法について「情報弱者(情弱)」になっていることでしょう。現状の正しい情報が得られれば、もっと効率的な様々な投資ができるのに、それを考える機会が奪われている。そのような情報ギャップを埋めることが、不動産テックが貢献すべき社会課題だと思っています。

加藤:我々の誰しもが「自分の生活を豊かで幸せにしたい」と思っていますよね。特に「住環境を豊かにする」という想いは、何万年も続いてきた人類の本源的な、どんな時代でも変わらない欲求と思います。過去がそうだったように、100年、200年後には、私たちはより良い住環境に囲まれているものと考えますし、不動産テックがすべきことはその歴史の歩みを進めることなのでしょう。

OECDの40カ国程度の家計データを見ると、どの国においても家計の最大支出項目は住宅です。日本では手取り収入の23割が住宅に使われていますし、諸外国でも同水準の家計支出が住宅に向かっています。豊かな国でも、そこまで豊かでない国でも、住宅に対してお金をかけるというのは世界共通です。

今日は「HOMETACT」のショールーム(「playground大手町」にて対談を実施)にお邪魔させてもらっていますが、世界の人々が最もお金をかけている住宅の、最先端の姿がここにあると感じています。

―近年の住宅業界では、どのような変化が見られますか?

加藤:昨今では必ずしも住宅はゼロから建てるというものではなく、既築物件の活用などの選択肢が増えてきましたね。リノベーション活用で全体のコストを抑えつつ、例えば、デザイン性を高める、アート性を取り入れる、音楽や照明を工夫することで、空間の付加価値を上げ、快適な空間づくりにこだわる方も増えてきた気がします。

橘:おっしゃる通りですね。ここ15年ほどで「リノベーション」という言葉はかなり浸透しましたし、実際にリノベーションを選択する人も増えてきました。その一方で、建売のような規格住宅が急速に増えたことも変化として挙げられるでしょう。自由で独創的な住まいや暮らし方を求めるエンドユーザーの変化に、不動産業界が追いついていないようにも感じています。

 

―海外と日本の住宅を比べると、どのような課題を感じていますか?

橘:日本の住宅業界には独自の神話のようなものがあり、「日本の家は性能が良い」と盲目的に考えられている方が多いと思います。実際のところはそうでもなく、日本の住宅は他の国、特にヨーロッパやアメリカと比べると、断熱性能やエネルギー効率が悪いというのはよく指摘されています。正直申し上げて、日本の住宅の性能は過去15年間であまり進化していないというのが現実で、住宅の性能を上げること、特に断熱性やエネルギー効率の向上は、これからもっと重要になっていくはずです。じゃあ「いつ進化させるの?」という話になったとき、私たちが今提供しているスマートホームの「HOMETACT」のような取り組みが、エネルギー効率の向上に役立つ場面が増えていくのではないかと思っています。

加藤:断熱性や熱効率への投資は、疑いなく重要ですよね。人生で最も長い時間を過ごす場所って間違いなく「家」なんです。家の中での温度や湿度のコントロールは、快適さや健康面でとても大切。地球環境への負荷の面でも極めて大事な視点です。人も社会にも豊かになるための鍵だと考えています。

ところで、2010年あたりからSNSの時代が本格的に始まりました。あらゆる企業が私たちの時間を、スマホ画面を通じて奪い合うという世界が訪れました。でも振り返ってみると、いくらスマホで時間を使っていても、実際に一番多くの時間を使っているのはやはり「家にいる時間」なんですよね。

近年は巨大なテック企業が誕生していますが、いまだ世界中のすべての上場株式や預貯金、国債など、いわゆる金融資産をすべて合わせても、不動産の価値には及びません。そして、不動産の中で最も規模が大きいのは住宅資産です。

日本では、不動産は業界として怪しいとか、不動産への投資はリスクが高いなどネガティブなイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、それは国民全体にとって非常に不幸なことだと思います。不動産は私たちの生活に欠かせないものですし、また資産価値としても最も重要であるからです。優良な不動産を求めることについて、社会全体でもっと真剣に議論すべきなのでしょう。

 

―不動産オーナーさんに見られる特徴や、その変化は何でしょうか?

橘:私も最近、不動産オーナーさんとお話をする機会が増えてきて、特に感じるのは、彼らが未来のことをすごく真剣に考えているという点です。例えば、これから建てる物件がすぐに陳腐化してしまうようなものであれば、それを子孫に残すことは不幸だと感じている方が多いんです。やはり、どうせ建てるなら、長持ちして価値が落ちないものを建てたいという気持ちは、誰もが持っている。最近特にそういった意識を強く持っているオーナーさんが増えてきた印象があります。

さらに、金融機関も開発物件の環境性能を重視した不動産投資ローン商品をつくろうという動きもあります。ESG(環境・社会・ガバナンス)という概念が浸透してきたこともあり、不動産業界もこの波に乗り、適切な性能を備えた物件を作ることを意識する企業が増えてきていると感じますし、これからますます加速すると思います。

大手の投資ファンドの世界でも変化がみられています。「HOMETACT」のようなスマートホームサービスが導入された、高性能な住宅を保有したいという要望は、今までにはなかった動きです。個人オーナーにおいても、環境対応に準拠した不動産を自分のリスクを取って開発して、場合によっては長期保有せずに物件を売却し次の案件に取り組むという、プロのデベロッパー顔負けの投資をされている方がいるのも面白いと思いますね。

加藤:ここ最近の、不動産オーナーさんの変化という点では、まず自分の住宅を購入してオーナーになる方の環境が大きく変わりました。20年前の住宅ローン金利は23%が当たり前でしたが、現在はゼロ%代です。また、金融機関間の競争によりオーナーになるための頭金のハードルも大きく下がりました。

次いで収益不動産について言えば、同じく過去20年ぐらいで参加している人たちの裾野も、その知識レベルもかなり上がったと感じます。かつては土地持ちの大家さん以外がアパート経営をするなんて考えられませんでしたが、サラリーマンが不動産経営をするのも一般化してきました。ただ、行き過ぎた感もあり、節税目的だけで不動産を利用しようとしたり、不動産経営の社会的な意義や長期的な収益性を無視するような投資は、控えられるべきでしょう。

 

ニーズを見極めた選択と集中 大事なのはメリハリのある投資

―人口減少が続く日本。これらかの日本の不動産はどうなっていくのでしょうか?

加藤:確かに日本の人口は緩やかに減少していきますが、それが大きな社会保障問題や労働力の問題に直結するとは考えていません。例えば、労働集約的であり危機的状況であると報道されてきた日本の物流については、置き配やスマートロックなどが登場しましたし、高速道路使用の規制緩和などのアイデアも多く出てきました。穏やかな変化であるからこそ、対処の仕様がある訳です。

同様に日本の人口減少をもって、不動産市場を長期にネガティブと考えるのは短絡的すぎるでしょう。実際、世界の長期の投資家視点では、日本の不動産は未だに有力な投資先となっています。成熟した国の中で、表面利回りから借入金利を引いた値がプラスになるのは日本だけですし、キャピタルゲインを狙わずとも、インカムプレイとして安定した収益が見込める可能性もあります。

橘:投資用の賃貸不動産へ大きな借入をしながらインカムを得るというのは、確かに日本ぐらいかもしれないですね。

加藤:一般のビジネスも不動産経営も同じと思いますが、人口が増えるから良い、人口が減るから悪い、という単純な話ではないですよね。忘れてはならないのは、どんな経済状況になっても、不動産は常に我々の最大資産の一つであり、非常に重要な位置を占めるということ。2100年になって、日本の人口が減っていても、その位置づけは変わらないと思います。つまり何とでもやりようがあるという事。そして時代を見据えた、適切な工夫やメリハリのある判断がビジネスに求められのは常でしょう。

橘:今の話、僕の肌感覚ととても合い、納得感がありますね。実は最近、「HOMETACT」の導入が地方都市でも急速に増えてきています。特に九州などでは、東京以上に相談が増えているんです。これは、都心のみに限らず、全国的に不動産の価格が上がっているということも影響しているのですが、建築費の異常な高騰を受けて、ある程度建て替えやマンションの新築ができる土地やエリアも地方都市では集約化されてきているんです。そのため、せっかく建てるのであれば、限られた条件の中で価値の最大化を目指そうという動きになっているように感じます。

不動産開発のデベロッパー側からすると、土地や建築費が高騰している中で、どうやって利益を最大化するかが求められています。特に、賃料を上げたり、資産価値を高めたりするために、積極的に設備投資を行う動きが加速してきています。逆に言うと、こうした投資に対して積極的に動く企業と、賃料を少し上げることすら躊躇して従来通り何もしない企業と、二分化が進んでいると感じます。次の一手を打たないと、と考えている先見の明がある企業や経営者の方々は、すぐに「HOMETACT」の導入を決断してくださいます。この差は日本市場における非常に面白い現象だと思います。

加藤:そんな動きがあるのですか。とても興味深いです。

人口問題と同じく、マクロ的に考えすぎるのが適切でない例としては、空き家問題もそうでしょう。日本全体で見ると、空き家の割合は15%ほどですが、やや数字だけが一人歩きしている気がします。

空き家総数の中では賃貸向け住宅が半分くらいを占め最大ですが、仮に10室アパート一棟がすべて空室ならば10の空き家があるとカウントされていきます。ただ、そのような空室が多いアパートは、もうオーナーの投資回収も社会的役目もとうの昔に終わった、築50年以上などの古い建物がそのまま放置されているケースであったりします。マクロ的な数値だけで短絡的に判断をせずに、これからの社会に必要な投資に向き合うことが大切と思います。

 

―都市圏ではない地方の不動産には、可能性があるのでしょうか?

加藤:都市圏ではない地方においては「産業、教育、観光」の三本柱のどれかを軸にすることになるでしょう。熊本では半導体産業をベースにした企業誘致が、国が支援する形で大きな盛り上がりを見せていますよね。秋田では英語のみで学ぶ新しい国際大学が、地方創生の一躍を買っています。そしてコロナ禍も開けて、外国観光客が再び激増している点では、日本のすべての地域にポテンシャルがあると言えます。観光中の財布の紐は緩いですし、コト消費はプライスレスです。

そして地方においてもう一つ大切なことは、必要に応じてしっかりと「損切り」「撤退」をすることであると思います。新規や追加の投資だけでなく、撤退も投資の大切な要素です。

日本の企業社会では、ゾンビ企業の延命や不良債権の処理を先延ばしにするような行為が、日本経済の活力を奪ってきました。日本のような成熟した社会では、いたずらに破産を怖がらない、リストラや清算などを通じ社会の新陳代謝を促す投資の意思決定も重要になります。これは不動産投資でも同じことで、時には厳しく冷静な目を持って、もうどうやっても収益を上げられる見込みのないものは潔く手放すことが大切でしょう。投資にしっかりとメリハリをつけるということです。

不動産オーナーはマクロ的な視点を重視しすぎず、目の前にある満たされていないニーズへの投資、そして撤退まで含めて向き合う姿勢が必要と思います。

橘:本当にそうですよね。実際にHOMETACTをご導入地方案件で、築20年のRC造マンションで30室のうち25室が空いているというケースがありました。確かにかなり田舎の方なのですが、実はポテンシャルはある物件なんです。ただ、問題としては管理会社も手を打たず、空室がそのまま放置されている状態が半年以上続いていました。まだ築20年ほどなので、そこまで築年数が古いわけではないのですが。そういった、「損切り」まではいかない中間地点に位置する物件が全国には2,000万世帯以上あると思っていますし、賃貸業界全体のピラミッドの中でもかなり大きなパイを占めているわけです。

私は「HOMETACT」に限らず、IoTサービスを導入することで、その中間層にいる物件を底上げすることが可能なのではないかと思っています。例えば、築20年の物件にあと20年は「HOMETACT」のようなスマートホームサービスを活用していきながら、その後建て替えるタイミングで、さらに新しい技術を組み込んでいく。こうしたアプローチこそ、リフォームやリノベーションが持つ大きな可能性の一つだと思います。

加藤:確かに。IoT化は、既存物件に対しての優良な「新陳代謝」になりますね。スクラップアンドビルドのように環境負荷も高くないですし。

人口の話に戻りますが、日本で人口が実際に減り始めたのは2005年から。当時も「これで日本は終わりだ」なんて言われ方がされていました。20年近く経ちましたが、日本は引き続き安定した平和な社会が続いていますし、この間に日本での不動産投資で財を築いた方も大勢いらっしゃいますよね。同様に、これからも人口は減る訳ですが、そんなに暗くなる必要はないと思います。

為替についても円安傾向が続くかもしれません。ただイギリスのポンドを見ると1920年から2020年の間で対ドルでの価値が5分の1まで落ちていますが、イギリスは先進国の一つとして力強く生き残っています。申し上げたいのは、人口の減少が経済や不動産価値の崩壊を招くという直感は、間違いであるということです。日本の未来を過度に悲観する必要はないと思いますし、不動産オーナーも一経営者として新しい取り組みやイノベーションを取り入れながら、変化に対応していくことが大切でしょう。

 

―日本の不動産には、どのようなポテンシャルが秘められているのでしょうか?

加藤:現在、都市部や観光地では、賃貸物件の小規模旅館業への展開が大きな変化となっています。海外の旅行者に短期貸しをすることで、賃料が1.5倍どころか、場合によっては2倍、3倍にもなる例も出ています。そしてその背景には、入退室管理にはスマートホーム技術を、客付けにはAirbnbなどの新しいサービスを利用するなど、最新の技術への投資と対応があります。

一方、世界を見るとニューヨークやバルセロナではAirbnbが禁止されたりと、民泊という変化に対しての副作用側のニュースも耳に入ります。日本政府の外国人旅行客数の目標値を見ると、まだまだ物件供給は足りていないだろうと思いますが、自分たちが持つ物件や地域において、どのようなチャンスとリスクがあるのかは見極めていくことが重要でしょう。

橘:足元、日本の不動産価格は上昇基調ですよね。特に都心では顕著で、数年前に比べると1.5倍になっているエリアもあります。これは、世界基準で見ても大きな変化のタイミングに差し掛かっていると言えると思います。やはりこのタイミングで、不動産に対する関わり方や考え方が業界から変わらないといけないと思っています。日本の国力や経済力を維持するためにもやはり業界全体が変わっていかないと、本当にもったいない。

過去には不動産バブルが崩壊し価格が急落したこともありましたが、現在は工事単価が下がる気配もありませんし、名目賃金も高まってきていますので、当面は価格の下落を心配する必要も少ないでしょう。不動産業界がエンドユーザーへ真剣に向き合っていけば、日本の不動産のポテンシャルが花開く、現在はそういうタイミングだと思います。

 

「情弱」を脱し、新しい情報提供の在り方を

―そういったチャンスを逃さないためには、やはりオーナー及びエンドユーザーの不動産リテラシーが重要になってくるのでしょうか?

加藤:私は人々の不動産リテラシーが高いほど、その国はより幸せになれると思っています。理由は、繰り返しになりますが、不動産は社会資産として最大の資産であるからです。大切な家族との時間を考えれば、家にお金を投資することは十分に意味があることです。不動産投資に長期の借入を活用していくことも、極めてまっとうであると思います。

橘:不動産業者と消費者の間にあるポータルサイトの改善なども大切ではないでしょうか。

昔は不動産業界の情報って、どこでどう得るかが非常に難しかったのですが、様々なポータルサイトが登場したおかげで、情報が均一化されて、誰でも簡単にアクセスできるようになった。情報の非対称性が減ったことは大きな進展だと思います。世界的に見ても、日本の情報サイトほど情報が整理されていて、検索がしやすいものは見られないかもしれません。

一方で、既存の情報ポータルでは、物件の性能や資産価値に関する評価軸が十分に整っていないと感じます。例えば、アメリカでは物件の修理履歴や設備の情報が公開されていたり、資産価値を様々な観点で評価しているサービスが充実していることで、購入者がより多くの情報を元に判断できます。しかし、日本では検索しやすい一方で、「駅距離」「築年数」など、これまで「常識」とされてきた判断軸以外の要素情報が少ないんです。このギャップこそが、エンドユーザーが物件選定をする上での「情弱」を生んでいる要因でもあります。

情報が均一化されたことで、確かに便利にはなりましたが、物件の選定基準も駅近や新築に偏りがちで、あまり深く物件自体の性能や資産価値に注目することが少なかったと思います。さらに言うと、前述の通り、日本の住宅性能はそこまで高くない、という話もあるので、なおさら乗せる情報が限られてしまう。

加藤:その「常識」とされている判断軸について、私は大きく疑問を感じています。私は海外に10年ほど住んでいた経験があるのですが、日本の「駅近」に対する信仰は、もう行き過ぎたバイアスであると思っています。ポータルサイトでの定量情報として表示しやすい項目は、人々の本来の希望とズレていたとしても、不動産価格を決める要素として強化されていくからでしょう。

橘:私が不動産のポータルサイトを見て感じることは、情報が充分ではないという点です。利回り計算や築年数など、周辺情報だけで物件を見るというのが定着していますが、それには限界があり、実際に物件を見てみないと、評価はできないでしょう。最近では環境性能などの情報が表示されるようにはなってきましたが。例えば、ペットを飼いやすい物件がなかなか見つからないし、その情報をしっかり提供しているサイトも少ない。やはり新しい情報提供の在り方が必要だと感じています。

 

―それらの課題に対して、どのような対策が有効だと考えますか?

橘:例えば、「HOMETACT」が導入されている物件のみが集まったポータルサイトがあれば、スマートホームを求めている入居者はとても助かりますよね。エンドユーザーと能動的にコミュニケーションが取れるプラットフォームがあってもいいのではと思っています。ユーザーは同じ家賃15万円を払うのであれば、どの快適性を選ぶのか、ちゃんと理解した上で判断したいと考えていると思います。

上記は一例ですが、今までにない軸で物件情報を提供していかないと、消費者との情報の非対称性は埋まっていかないと思います。オーナーが入居者を想って設備投資をしたとしても、既存の情報ポータルサイトだと、「スマートホーム」や「スマートロック」というフラグがないので借り手に情報が効率的に届かない。これはスマートホームだけの話ではないのですが、「入居後に実感できる本当の価値」が伝わっていないのはもったいないと思います。

 

管理会社・オーナー・入居者の3者が『三方よし』に

―情報の非対称性を小さくするには、どのような取り組みがあるのですか?

加藤:日本では過去に不動産IDを導入しようとして、3回失敗しているのですが、現在は4回目の挑戦をしています。住所表記などの統一も大事ですし、修繕履歴やバリューアップ履歴をどう組み込んでいくかも重要でしょう。住宅は人生で最も大きな出費の一つです。検討している物件の過去情報を正しく知れたり、現在の価値を判断できる情報がストレスなく手に入るのは、社会の厚生につながります。

アメリカだと不動産テック企業が多くの情報を無料で収集して提供しており、州が運営するMLSMultiple Listing Service)へ調べに行かなくても、その物件の過去の取引価格や予想時価などがグラフで時系列に確認できるまでになりました。物件の機能、学校環境、物件に対する評価もGoogleの星評価のような情報として確認できます。そのようなサイトを見て思うのは、オーナーオリエンテッド、ユーザーオリエンテッドの思想です。

橘:我々は「HOMETACT」を導入してくれたオーナーが自分の物件を訴求できる場所や機会をどんどん増やしたいと思っています。各社の物件サイトだけでは、入居後のエンドユーザーの生活に関してはフォーカスしきれないし、どうしても定量的な情報しか出せないというのが現実です。それが非常にもったいないと感じています。私たちはInstagramなどを活用して、HOMETACTを日常の生活でどのように活用できるのか、実際のユースケースを発信したりしています。将来的には、「HOMETACT」が導入されている物件を積極的に情報発信し、客付けまでできるようになればいいと思っています。こういった情報を一度知ってしまえば、物件を探している人たちは、繰り返しその情報を求めてサイトに訪れるようになるはずです。こうした情報をしっかり届けることがビジネスチャンスになると感じています。

加藤:それはいいですね。自分の意思で住宅へ投資をしている人たちの顔が見えるコミュニティがあれば、住宅への投資の意識も変わりますよね。

ところで、話が変わるのですが、うちの中学生の子供が学校の家庭科の授業の一環として、自分の理想の家をCADソフトで作るという課題をやっていました。コンピュータソフトも覚えるし、自分の将来も想像するし、アウトプット重視の「良い課題だなぁ」と思いました。オーナーオリエンテッドといいますか、人生に主体性を持つための、とてもよいトレーニングだと。

 

―理想の家やライフスタイルを実現するためには、どういったことが必要になるのでしょうか?

加藤:大人になって駅から何分とか築何年とかのスクリーン結果から「選ぶ」ことを強いられる前に、自分は『こういう家に住みたい!』という想いを白いキャンパスに「描いてみる」ことは、大事だろうなと。自分にとって価値のあるものを自分たちで作っていって、自分の人生でそれを証明して楽しんで、さらに次の世代にその価値や思いを伝えていけるようにしていく。

住宅を通して人生の幸せをつかむには、日本で住宅の価格を決めているという常識を疑ってみることも大事だと思います。私がアメリカに住んでいた時、物件探しに築何年という概念はありませんでした。募集資料にはもちろん、不動産エージェントもそんなことは知りません。同様に、駅から何分という情報も表示されていません。物件を実際に見に行ってみて、気に入ったらそこを選ぶという、極めてシンプルなものでした。実際、イギリスでは築120年、アメリカでは築60年の家に住んでいましたが、リノベーションがきちんとされいれば、築古になると価格が下落するということもありません。住む人にとって意味があり本当に価値がある住宅を選ぶには、条件で裁くのではなく、感性に従うことが重要な気がします。

橘:理想的な暮らしやライフスタイルを実現するための手段をユーザーがちゃんと知り、自分の資産を最高に効率よく運用するための方法を、みんながもっと知ることができる方向にしていきたいですよね。私は「WealthPark」が日本の不動産市場において重要な役割を担うサービスだと思っているのが、まさにそこなんです。オーナーオリエンテッドで、自分の保有資産を、オーナー自身が深く知ることが非常に大事です。自分の保有している資産のことをちゃんと知れば、そこから生まれる価値は本当に無限だと感じています。

さらにそこに「住まう」ことを考えると、マンションも単なるマンションではなく、実際にはいろんな人生に携わる大きなアセットであり、そこに向き合うことが非常に重要だと思っています。「HOMETACT」と「WealthPark」をセットで導入いただくことで、管理会社、オーナー、入居者、の3者が一番望む形、『三方よし』で回るようになると考えています。

加藤:日々、様々なイノベーションが生まれている中で、それを生活に取り入れるか否かの判断は、個人、家族、さらには会社や国の豊かさにまで影響していきます。例えば、PCを導入している企業としていない企業、社員へIT教育をしている企業していない企業の差は、10年後、20年後には明確に現れますよね。同じように、スマートホームを導入している家と、まだ導入していない家では、生活の豊かさが明らかに異なるのは当然です。

イノベーションに背を向けず、良いものに気づいて積極的に取り入れていくことで、人々の暮らしの豊かさは大きく変わっていくと思っています。

橘:スマートホームの普及は、iPhoneの登場と似ていると思ってます。今までにないUX(顧客体験)があらたなスタンダードをつくっていく場面に立ち会ってるんだと。これから日本の住空間は確実に進化していきますよ。ただ、スマートホームは実は技術的にはもっと原始的なんですよね。究極的には、単純にいつもの住設機器をインターネットに繋げただけというシンプルな仕組みなんですよ。でも、それをどのように不動産の実務や商流にフィットさせて、エンドユーザーにも使いやすくし、BtoBtoCで展開するかが腕の見せ所です。

床暖房なんて50年前、1960年代の東京万博の頃からあって、住設機器って意外と長い歴史があるんです。床暖房や食洗機、ディスポーザーなんかは、今やマンションの標準設備として20年くらい定着していますよね。床暖房とスマートホームが仮に同じだとすると、やはりいつか取り組まなければならない技術だと思うので、今のうちに進めていくべきだとよく話していますし、そうだよね、と共感いただけることも多々あります。

 

イノベーションを活用しながら、社会の豊かさを考える 「HOMETACT」がそのきっかけに

―最後に。本日の気づきや加藤さんの「HOMETACT」への期待をお聞かせください。

加藤:投資というのは「人々の想い」であり、投資こそが社会の成長と豊かさをつくっています。特に住宅は我々の社会で最大の資産であるので、その投資活動は極めて大事。今日はこのplayground大手町にお伺いして、自分自身の生活に取り入れられていないイノベーションが沢山あることに、素直に驚きました。

橘:本当に、電球1つスマートホーム化するだけでも変化があって。例えば子供の寝かしつけのシーン。2歳半の娘と寝る時、Alexaに『ねんね』と言うだけで、電気が消えて、睡眠導入の音楽が流れ始めるんです。それを毎晩使っているんですよ。最近は妻も使い始めてくれて、これってもう自分の生活に最高にフィットしてる機能じゃないですか。娘は保育園でいつもオルゴールの音を聞きながらお昼寝しているので、同じプレイリストを流してあげると、30分以内に寝てくれるんですよね。

他にも、子供が寝そうなタイミングで子どもを起こさずに電気を消したり、スマートスピーカーに『おやすみ』と一声かけたり、アプリで操作したりするだけで電気が消えるんです。そんな細かなところで得られる幸福感が、実はすごく大きいですし、心の豊かさにもつながっていると思います。よく「時短」とか「電気の消し忘れ」という話題にフォーカスが当たることが多いのですが、私は『ねんね』のシーンみたいなものが、すごく生活の中での豊かさを与える一場面だと思っています。ぜひみんなに知ってほしいですね。

加藤:いやー、体験してみたいですね。我が家は2年前にスマートロックへの投資を行いましたが、これで家族の生活の質は劇的に向上しました。もう驚くぐらい。ルンバなどの自動掃除機もそうですし、家からのオンライン会議も日常の当たり前になりました。そして最近はカーシェアを使い始め、もうその便利さに非常に驚いています。

申し上げたいことは、世の中のイノベーションを知らないとか、使っていないというのは、とてももったいないということ。もちろん、使わなくても暮らせますけど、便利なものは使った方が、豊かさには確実に近づく。

まさに「HOMETACT」のような明日からでも使えるイノベーションに向き合う。個人のそういう意識が、家庭や社会の豊かさを高めていくのではないでしょうか。