(左から、橘、戸澤氏、河村氏、中西)
中央日本土地建物株式会社(以下、「中央日本土地建物」)は、東京都台東区の賃貸マンション「バウスフラッツ蔵前」の全戸に三菱地所の総合スマートホームサービス「HOMETACT(ホームタクト)」を標準採用した。アプリや音声でのデバイス操作や共用部での顔認証システムなど積極的に最新技術を導入し、便利で快適な暮らしを実現。入居者と賃貸管理会社の双方から好評を得ている。
中央日本土地建物グループは、グループ横断型組織「CN TechLab(シーエヌ・テックラボ)」を起点に、不動産におけるテクノロジーとデータを活用したDX推進と新たな価値創造を目指しており、スマートホームの導入もその一環だ。同社に「HOMETACT」導入の経緯や期待、今後の不動産ビジネスの変革に向けた思いなどを語っていただいた。今回対談をさせていただいたのは、三菱地所の橘と中西。
―中央日本土地建物さまは、賃貸マンション「バウスフラッツ蔵前」で「HOMETACT」を全戸標準採用しています。「HOMETACT」導入の経緯を教えてください。
河村:ブランドスローガンである「感動が育つ住まい」の実現に向けて、BAUSに関わるすべての社員が"BAUS+one”に取り組んでいます。それは、確かな商品やサービスを通して、「これからの住まい」に求められる新しいアイデアを生み出していく活動です。バウスフラッツ蔵前でも特徴を打ち出そうと考えていたタイミングで、赤坂にある「HOMETACT」のショールームを見学させていただきました。実際に体験した時のインパクトも大きかったですし、会社としてDXを推進するなか、取り組み事例の少ない分野でもあったスマートホームに挑戦したいと考え、「HOMETACT」の導入を決めました。
「HOMETACT」は、「シーン」機能を活用することで、「おはよう」や「いってきます」の音声ひとつでさまざまなデバイスを動かすことができ、簡単に部屋の空間演出を切り替えられるところに感動しました。また、「HOMETACT」は住宅の施工段階からスマートホーム機能を組み込み、配線や機器を設置するため、後付けした際の複雑な設定や見た目の不自然さがありません。これにより、デジタルに強くない方でも、入居時からスムーズに利用開始でき、入居者目線で魅力的なサービスと感じました。
中西:中央日本土地建物さまとは2021年頃からお話する機会をいただき、2023年に入ってから「HOMETACT」の具体的な検討に入っていただきました。せっかくならスマートロックや顔認証システムも導入したいとご相談を受け、それらも全て「HOMETACT」に連携させてマンション全体のスマート化を実現しました。今回は物理キーレス運用も実現させましたし、本当に先進的な仕様にできていると思います!
―スマートホームのサービスが複数ある中で、どんな点が「HOMETACT」導入の決め手になりましたか?他社との違いなども教えてください。
河村:他社のスマートホームは後付けができるのですが、アプリからデバイスを操作した後に、デバイスが本当に作動しているか確かめる手段がありませんでした。その点、「HOMETACT」はアプリで各デバイスがどういう状態か、ひと目でわかるので安心して使えます。
中西:中央日本土地建物さまに導入させて頂いたデバイスでは、各デバイスとゲートウェイが双方向で通信しているので、常に住宅設備や家電がどういう状態か遠隔からでも分かります。赤外線通信を使うサービスでは一方通行の通信になってしまうので、リアルタイムで状況が分からない部分があります。
河村:三菱地所グループの物件に「HOMETACT」を導入した事例が多数あったのも大きかったですね。「HOMETACT」のWebサイトや提案資料を拝見して、物件に付加価値を生み出せるイメージが湧きました。
中西:私たちはデベロッパーの視点を活かして、スマートホームサービスを開発してきました。三菱地所レジデンスなどの物件にも導入してきた実績があるので、自信を持ってご提案できた部分があります。
河村:事業の視点で考えると、工事費が高騰している中で、いかに付加価値をつけて収益を上げられるかが重要なポイントでした。高い利回りで投資家や次の事業者に売却するためには、付加価値を高める必要があります。既存の枠組みから飛び出して付加価値を高めていくという面で、「HOMETACT」は非常にマッチしました。今後の新築マンションはもちろん、既築のマンションにも導入して一棟リノベーションに活用することも考えています。
―実際に「HOMETACT」を導入して、どのような声が届いていますか?
河村:内覧者は「HOMETACT」の機能性の高さに驚いていると賃貸管理会社を通じて聞いています。声でデバイスが反応する仕組み、特に電動カーテンへの反応が良いそうです。また、賃貸管理会社からは物理キーレス運用が好評です。カギを渡す手間が省け、入居時のシリンダー交換も不要になります。入居者は顔やスマートフォンだけあればマンションに出入りできる点も便利ですし、第三者に合鍵をつくられるリスクも払拭できます。物理キーレスの導入・運用では、三菱地所さまにフローの整備や関係各社の取りまとめをしていただき、非常に助かりました。
中西:まだまだスマートホームの世界は黎明期なので、賃貸管理会社も設計担当の方も初めて扱うケースが多いと感じています。そこに私たちが入って、一緒にプロジェクトを進めていくことを大切にしています。その部分を評価いただけているのはうれしいですね。導入支援からアフターケアまで伴走していく点は、私たちの強みにもなっています。物件にデバイスを取り付けて終了という関わり方ではなく、安定的に運用できるようにサポートしています。「HOMETACT」導入の依頼が増えているのは、システム自体の便利さに加えて、物件価値向上に寄与できるという点や、設計から導入・運用までのサポートが手厚いという特徴が評価されている面もあると感じています。
河村:私自身がスマートホームを勉強しながらプロジェクトに携わっていたので、どこに相談すれば良いのか分からないケースもありました。物理キーレスもそうですし、他にも問題や質問があった時は三菱地所さまに力をお借りしました。見積もりの段階から相談に乗っていただき、まるで自社社員かと思うくらい動いていただきました。心強かったですね。
中西:「HOMETACT」の導入はゴールではなく、スタートと位置付けています。利用者が暮らしの満足度を高められるように、アップデートしていくサービスが私たちの目指すところです。
私たちは導入から伴走しているので、現場で何が起きているのかすぐに把握できます。社内の保守チームとの連携も非常に強固なので、トラブル対応にあたる仕組みが確立できています。それから、各メーカーとのリレーションも構築しているので、デバイス関連のトラブルがあれば、大手メーカーに私たちから直接問い合わせ、迅速に対応していただいています。
河村:「HOMETACT」には、年中無休の有人コールセンターがあるのもありがたいですね。今のところ、賃貸管理会社や入居者からの問い合わせは一度もなく、安定して運用できています。アフターケアの体制が整っているからこそ、導入後も上手く運用できていると感じます。
―今回は単に物件への「HOMETACT」導入だけなく、中央日本土地建物さまが運営する「CN TechLab」の取り組みともコラボレーションしていると伺いました。詳しく教えてください。
戸澤:私は賃貸マンションの開発と同時に、「CN TechLab」の住宅部門チームに参加しています。「CN TechLab」はテクノロジーおよびデータを活用して、新たな不動産ビジネスの創造を目指す組織です。「HOMETACT」もその一環で、テクノロジーを使って事業変革を起こす取り組みを進めています。「CN TechLab」を通して得られた知見やノウハウは、不動産業界におけるDX推進に貢献するため、広く共有を図るつもりです。
橘:私自身も不動産テックや不動産DXを長らく追いかけてきました。6、7年前から不動産テックやプロップテックといった言葉がようやく業界でも聞こえてくるようになりましたが、積極的に情報収集していたのは大手数社だけでした。中央日本土地建物さまも早い段階から人材を投入して戦略を立てていましたよね。スマートホームは目に見えるDXとして有効ですし、私たち事業者もエンドユーザーも、賃貸管理会社も「三方良し」の結果を出しやすいです。スマートホームは、次世代の住生活インフラとなる可能性を日々感じています。
戸澤:マンション1棟に「HOMETACT」を導入したことで、活用方法のアイデアが社内で膨らんでいます。例えば、宅配ボックスに届いているものを「HOMETACT」で把握できるようになったら便利なのでは、というアイデアなどさまざまあります。分譲マンションの担当者とは「新しい暮らし方が見えてきて、提案の仕方が変わってきた」とよく話しています。さらに「CN TechLab」の具体的な取り組みとして、実際に社員がマンションに入居して「HOMETACT」を体験する機会をつくりました。実体験から「HOMETACT」の長所や改善点を分析したり、お客さまに紹介したりできると思っています。
―「HOMETACT」を採用したマンションに社員が住むのは面白い取り組みですね。「バウスフラッツ蔵前」への導入をきっかけに社内での広がりを感じます。
橘:「HOMETACT」の導入が1つ実現すると、拡張アイデアが出てきますよね。私たちが「HOMETACT」でこだわっているのが、特定のメーカーや限られたパッケージに縛られないサービスの提供です。そうしないと、将来的に幅広いメーカーと連携していこうと思った時に制約が出てしまいます。
戸澤:まさに、その通りです。特定のメーカーのデバイスしか対応していないスマートホームと違って、「HOMETACT」では様々なメーカーのデバイスから選択できます。両者で協力しながら各デバイスの仕入れ値を抑えたり、コスト面のメリットを生み出しやすいのも「HOMETACT」ならではだと思います。それから、新築と既築のマンションで入居者の属性にどのような違いがあるのかを「HOMETACT」で分析していくと、新しい顧客層やマーケットに訴求できると考えています。データを使って新たな商品企画やマーケティングに活かしていくことが、これからは大事になると感じています。
橘:非常におもしろい観点ですね。確かに、マーケティングや商品企画への活用は、私たちも創業当初から考えています。その分野での情報交換も続けていきましょう。弊社は、次のモデルタイプになる住まいの在り方を自社だけでやっていくのはもったいないと思っています。ありがたいことに、「HOMETACT」を採用してくださるデベロッパーは、どんどん増えています。「デベロッパー連合」のような形で、次世代の商品企画を同時多発的に進める動きが生まれています。「HOMETACT」はリーシングやマーケティングの考え方も全て上向きに変えて、業界全体にインパクトを出せると確信しています
戸澤:いち早くマーケットのトップを狙うには、先進的な商品やIoTを使ったデータ収集・分析が不可欠です。一歩先を行く開発をしていかないと、将来的に生き残ることが難しいと考えています。今後も、「HOMETACT」運用を通じて、皆さんのアイデアやノウハウを活用させていただきながら、一緒に取り組んでいけたらと思います。
橘:中央日本土地建物さまとは「HOMETACT」の導入にとどまらず、DXや不動産テックの分野でも常に情報交換させていただいています。これからも、より積極的に二社で協力した形の企画を推進できたらと考えています。